日本とスペイン、仕事と家庭、そして老いていく親。
どちらかを選べば、どちらかを失う揺れの中で、
私はようやく「今に立つ」という感覚に辿り着いた。
立ち止まった大きな理由は、
日本とスペインのあいだ、
そして仕事と家庭のあいだで、揺れ続けていたことにあった。
どちらかを選べば、どちらかを失う。
そんな状態の中に、私は長く立っていた。
日本で活動を広げるということは、
スペインの家を空けたままにするということでもある。
そして私にとって日本は、
仕事の場であると同時に、
老いていく親のいる場所でもあった。
夫の同意があったとはいえ、
それが期限付きである事実は変わらなかった。
「どちらも大切にする」という言葉は美しい。
けれど現実は、いつも静かに問い返してくる。
それは本当に、両立なのか。
ただの先延ばしではないのか、と。
どっちもは無理なのかもしれない。
どういうバランスを取ればいいのか。
それは、考えて分かるものではなかった。
実際にやってみるしか、確かめる方法はなかった。
行き来し、試し、迷い、
時には、どちらにも十分に応えられていないような
居心地の悪さを抱えながら、時間だけが過ぎていった。
日本で活動を広げることは、
私にとって「将来のため」だった。
けれど、本当に大切にすべきものは、
未来ではなく、
今ここにある時間だったのかもしれない。
「間」とは、
過去でも未来でもなく、
今という現在の中に
ひそんでいるものなのだと、
ふと思った。
けれど、その揺れの中で、
少しずつ輪郭を持ちはじめたものがある。
すべてを完璧に保つことはできない。
どこかで手放し、どこかで譲り、
それでも続けていける形を探すしかない。
そうしてようやく、
私は今、自分なりのバランスの上に立っている。
理想的とは言えないかもしれない。
誰かの正解とも違うだろう。
それでも、これなら続けられる、
そう思える場所だ。
そして、本当に守りたいものが、
ようやく、はっきりと見えたのも――今だ。
それは、
何かを新しく手に入れた、ということではない。
失わずにいたいものが、
何なのかを知った、というだけのことだ。


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